BASIC 認知症世界の基礎知識

認知症世界に入る前に、基本的なことを知っておく
ことでよりこの世界を楽しむことができます。

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01 認知症ってどういう病気?

認知症というのは、実際にどんな病気、状態を意味するでしょうか。
以下は、日本神経学会による定義です。

一度正常に発達した認知機能が 後天的な脳の障害によって、持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態

つまり、脳の病気により、毎日の生活に支障をきたす状態のことを意味します。

何もできなくなるわけではありません

「認知症」というと、何もわからなくなる、介護が必要になる、不可解な言動が増える……
このようなイメージを持っていませんか?
決して、そんなことはありません。今まで通りできなくなること、難しくなることもあるでしょう。それも、原因になっている脳の機能のトラブルが分かれば、ちょっとした工夫で、できることがたくさんあります。多少失敗することがあっても、できることを続けることが、今後の認知機能の低下を防ぐことにもつながります。
認知症への誤ったイメージ、偏見は捨てて、正しい知識を学び、適切に対処しましょう。

認知症はめずらしいことではありません

日本の認知症の人の数は年々増えていて、2050年には1000万人を超え、高齢者(65歳 以上)の3人に1人がなると予測されています。
あなた自身、あなたの大切な人が認知症とともに生きるのが、ごく当たり前の時代を私たちは生きています。

※ 各年齢の認知症有病率が上昇する場合の将来推計
出典:認知症施策推進総合戦略 (新オレンジプラン) ~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~の概要 (厚生労働省)

人生100年時代を生きる、
日本人誰もがごく普通になる病

認知症のある方の割合は年齢が上がるに従い増え、85歳以上の方の6割近くを占めます。
日本人の平均寿命は男性が81.1歳、 女性が87.1歳(令和4年現在)です。こう聞くと、皆さんは大体男性なら81歳くらいまで、女性は87歳まで生きると考えることでしょう。ただ、この数字は乳児や子供の時に亡くなった方も含めた日本人全員の平均寿命です。
現在70歳男性の方の平均余命は16年、つまり86歳まで、70歳女性の平均余命は20年、つまり90歳まで生きるのが標準です。
日本人にとって、90歳まで生きるのはごく普通、それが人生100年時代であり、認知症とともに生きるのが、当たり前の時代なのです。

02 認知症ってどうしてなるの?

最大の原因は加齢

それでは、なぜ認知症になるのでしょうか?
以下は、年齢別の認知症有病率を表したものです。
ここから明らかなように、認知症は加齢に伴い発症する病気なのです。

出典: 厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業 「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(平成21~24)総合研究報告書

認知症の原因となる病気の種類は70以上あると言われています。その原因となる疾患のう ち最大のものが、アルツハイマー型認知症で約7割を占めます。
脳血管性認知症、レビー小体型認知症とあわせた三大疾患で約9割を占めます。

出典: 同上

アルツハイマー型認知症

異常なたんぱく質が脳にたまることで、脳の神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮、小さくなることで、様々な認知機能のトラブルを引き起こす病気です。
最大の要因が加齢です。その他にも運動や食事、喫煙などの生活習慣、社会的な孤立、遺伝なども発症のリスクを高めると報告されています。

血管性認知症

脳の血管の一部が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血、脳の血管が狭くなる脳血栓など、血管の異常で、血の流れが滞り、神経細胞の機能が失われたり、血液で脳が圧迫されることで、様々な認知機能のトラブルを引き起こす病気です。
脳梗塞や脳出血につながる、加齢と生活習慣の乱れ(喫煙、肥満、大量の飲酒など)が最大のリスク要因です。

レビー小体型認知症

脳の神経細胞の中にレビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質がたまり、大脳皮質に広がり、神経細胞が徐々に減り、様々な認知機能のトラブルを引き起こす病気です。
実際には存在しない人や物が見えたり(幻視)、歩行や動作が困難になる(パーキンソン症状)を伴う場合もあります。
なぜ原因物質であるレビー小体が出現するのか詳しいことはわかっていません。

03 治療できないの?治らないの?

多くの疾患で根治法はないが、
進行を抑えることは可能

70近くある認知症の原因疾患のうち、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症などの多くは、徐々に進行し、元に戻ることはない、根本的に治療する方法が確立されていない病気です。
しかし、病気の進行を抑制する薬は色々と存在していますので、症状の進行を抑える、予防することは十分可能です。
進行の予防のためにも早い段階で発見し、早期に治療を始めることが大切です。

治るタイプの認知症も

認知症が疑われる人のなかで、原因となる病気を治療すれば治る、あるいは軽減するケースがあります。
治療可能なものは、全体の7%にあたると言われています。「治療可能な認知症」と呼ばれるものは、以下のような疾患や症状です。

  • せん妄
  • うつ病
  • てんかん
  • 慢性硬膜下血腫
  • 正常水頭症
参考:上野秀樹(監修)、内田直樹(執筆):認知症「見立て」の知、対応の「技」、 訪問看護と介護、 vol.25 no.5,9,10,11, 2020

04 予防はできないの?

予防よりも、備え

以下の表は、認知症の発症リスクを高める危険因子を表すものです。つまり、これらの危険因子を減らすように毎日の生活を改善することで、認知症になるリスクを下げることができる可能性があります。
しかし、この危険因子の大半は、飲酒・喫煙・高血圧・身体不活動(運動不足)など、一般的な生活習慣病の原因であり、予防のためには「健康的な生活」を送るということでしかありません。様々な研究はされているものの、「これをやったら、認知症を予防できる!」という科学的エビデンスが明確なモノは残念ながら存在しません。
85歳以上の方の半数以上が認知症とともに生きることになります。認知症を過度に恐れて、「予防」を謳う科学的根拠の薄い商品やサービスに飛びつくのではなく、認知症とともに生きる人生に備えましょう。

出典: Livingston G, wt al.Lancet.2020; 396: 413-446

備え その1
正しい知識を身につける

認知症について、誤った認識・偏見は捨て、正しく理解しましょう。このウエブサイトでの情報に加えて、次のような書籍が参考になります。

備え その2
ともに歩む仲間、人生の生きがいを育む

先ほどの表の中の、65歳以上の高齢者の危険因子の中で、三番目に上がっているのが、「社会的孤立」です。
家族、友人、知人などとの交流が少ない人は、認知症のリスクが高いということを意味します。
この研究以外でも、社会活動への参加、豊かな人間関係、人生の生きがいが、認知症の発症リスクを下げ、認知機能の低下を抑える効果があるという各種研究が存在します。
例え、認知症になったとしても、人と交流し、生きがいがある人生を送ることが、認知症の進行を抑えることにつながるのです。
人生100年時代。まだまだ時間はあります。未来に向けて、あなたがやりたいこと、楽しみたいことをどんどん増やしましょう。豊かな人間関係を築きましょう。

05 日常生活でどんなことに困るの?

認知症に伴う 10 のトラブル

脳の障害による認知機能の低下により、以下のような日常生活のトラブルに直面することがあります。

記憶のトラブル

自分の行動や過去の経験や知識・言語などを思い出せなくなったり、たった今見たことが見えなくなった途端に忘れてしまう現象が起こるのです。

→ ミステリーバス → ホワイトアウト渓谷

時間のトラブル

過去の出来事や思い出を現在進行中のものだと思い違え行動してしまったり、24時間や季節・年月の感覚が失われるなどの現象が起こるのです。

→ アルキタイヒルズ → ミステリーバス

言語のトラブル

言語や抽象的な概念が徐々に頭の中から消え、会話や文章の理解や思いや考えを言葉にすることが難しくなる現象が起こるのです。

→ アレソーレ飯店

対人認識のトラブル

人の顔を正しく認識できなかったり、別人の顔に見えたりすることで、大切な人のことがわからなくなる現象が起こるのです。

→ 顔無し族の村

身体感覚のトラブル

皮膚の感じ方(触覚)や味(味覚)、臭い(嗅覚)が変化したり、鈍感になったり、過敏になったりする現象が起こるのです。

→ 七変化温泉

空間認識のトラブル

左右、上下、前後、手間・奥などの空間を認識する感覚が失われ、目指す場所へと移動することが困難になる現象が起こるのです。

→ 二次元銀座商店街

身体コントロールのトラブル

自分の手足などの身体の位置や方向、周辺のモノや環境との距離や奥行きが把握できず、身体を思い通りに動かせない現象が起こるのです。

→ 服ノ袖トンネル

注意のトラブル

聴覚や視覚が敏感になり、聞くべき音や見るべきものに集中できない、二つのことを同時にできない現象が起こるのです。

→ カクテルバーDANBO

手続きのトラブル

今まで慣れ親しんできた手続きや複数のものからの選択が難しくなる現象が起こるのです。

→ カイケイの壁

幻覚・錯覚のトラブル

あるはずのないものが見えたり、聞こえたり、匂いがするなどの現象が起こるのです。

→ パレイドリアの森

認知症は個人差が大きい病気です。全ての人がこれらのトラブルを経験するのではなく、症状は多様です。

行動・心理症状とは

認知症に伴う行動や気持ちの症状のことを行動・心理症状(BPSD)と呼びます。認知症に対して誤った認識が定着している理由の一つが、「徘徊」「物盗られ妄想」「介護拒否」といった行動・心理症状を表す否定的な言葉だけが広がっていることがあります。この行動・心理症状の背景にあるご本人の認知機能のトラブルや心の状態まで、しっかり理解しましょう。

不安・抑うつ

認知症の方の多くが、自分の認知機能にトラブルを抱え、今までできたことができなかったこと、自分でも理解ができない行動をとったこと、周囲に迷惑をかけてしまったことなどに戸惑い、不安を感じています。
病気になると不安な気持ちになるのは認知症に限らず当たり前のことです。

暴言・暴力

穏やかな性格だった人が、怒りっぽくなったりする場合があります。怒りの感情の背景には、必ず理由があります。
日常生活の失敗や困難に不安や苛立ちを感じているのかもしれません。思うように言葉が出ず、もどかしさを感じているのかもしれません(→アレソーレ飯店)。
自分では当たり前のことを言っているのに、それが過去の出来事であったり(→アルキタイヒルズ)、実在の世界では見えないものであったり(→パレイドリアの森)するため、周囲の人には理解してもらえず、否定的な態度を受けたのかもしれません。
人は理由もなく、怒ったり、暴力的になったりはしないのです。

徘徊

徘徊とは「無目的に歩き回る」ことを意味します。これは、「アルキタイヒルズ」で紹介する記憶と時間のトラブルによるものです。ご本人は記憶がタイムスリップしてしまい、自分が今やるべきこと(仕事、買い物など)をやろうと思い、外出するのですが、時間・空間・記憶のトラブルで、それが深夜だったり(→トキシラズ宮殿)、外出の目的がわからなくなったり(→ミステリーバス)、近所で迷ってしまったり(→二次元銀座商店街)している可能性が高いのです。決して無目的に歩き回っているわけでは無いのです。

睡眠障害(不眠・昼夜逆転など)

睡眠障害 (不眠、昼夜逆転など)
高齢になると、誰もが睡眠時間が短く眠りが浅くなりやすいものです。
また、認知症による時間感覚のトラブル(→トキシラズ宮殿)により、体内時計の調節がうまくいかずに睡眠のリズムや一日24時間の感覚が崩れやすくなります。
トイレが近くなったり、トイレの不安を感じている(→七変化温泉)のかもしれません。

物盗られ妄想

「自分の大切なモノが盗まれた」と身近な人を疑う現象です。例えば、財布を置いた場所や買い物をしたという自分の記憶が抜け落ちていたり(→ミステリーバス)、時間感覚が歪んでいたり(→アルキタイヒルズ)などが理由で、 本人の中では「今あるはずのものが、あるはずの場所にない」と感じ、「盗まれた」と思っているのかもしれません。

介護拒否

本人が介護を嫌がる場合があります。それは、拒否しているのではなく、本人には受け入れられない理由があるのです。洋服の脱ぎ着が難しく手伝ってもらうのが恥ずかしいのかもしれません(→服ノ袖トンネル)。
お風呂を不快に感じているのかもしれません(→七変化温泉)。理由は人それぞれです。

失禁

認知症とは無関係に、加齢に伴い排尿機能に問題を抱えることが増えてきます。排尿機能自体は正常でも、尿意を感じにくくなっていたり(→七変化温泉)、トイレを見つけられなかったり(→ホワイトアウト渓谷二次元銀座商店街)、洋服の着脱や便座に腰掛けることが難しかったり(→服ノ袖トンネルサッカク砂漠)、様々な理由が考えられます。

帰宅願望

「家に帰りたい」と主張したり、実際に家を出て行ってしまうことがあります。施設や病院等に滞在中に帰宅を求める場合もあれば、現在住んでいる家にいても帰宅を訴える場合もあります。前者のように、馴染みがなく落ち着かず、安心できる自宅に帰りたいと思うのはごく自然なことです。
時間・時代感覚のトラブルにより、愛着がある過去の住まいに現在でも住んでいると認識し(→アルキタイヒルズ)、現在の家を自分の自宅とは思えず、帰ろうと思っているのかもしれません。

異食・過食

食べ物ではないものを口に入れる(異食)、過剰に食事を求める(過食)ことがあります。認知機能の低下により、食べ物かどうかの判断がつかない、強い不安やストレスを感じている、身体感覚の変化で強い食欲を感じている(→七変化温泉)、記憶と時間のトラブルで食事をした記憶が失われている(→ミステリーバス) などの理由が考えられます。

06 まず何をしたらいいの?

認知症かもしれない?と感じている方

その1 専門職に相談しよう

「認知症かもしれない」と思っても、どこに何を相談したらいいのかわからなかったり、「まだ大丈夫」と相談を先延ばしにしたりしていませんか。医師やソーシャルワーカーなどの専門職に相談することは、認知症世界の旅の第一歩です。
「自分だけでモヤモヤしている状態から、抜け出そう」、「早い段階で相談して、早めにスタートを切ろう」、こんなふうに捉えてみると、ためらう気持ちも少し楽になるかもしれません。不安なこと、気になっていることを話してみましょう。専門の病院や役立つ情報を教えてもらうことができます。相談できる専門職の存在は心強いもの。
これからの旅を一緒に歩む、仲間の1人になってくれることでしょう。

「認知症かも」と思ったときの相談先
▶顔なじみのかかりつけ医
▶役所の高齢者福祉担当や介護保険担当窓口
▶地域包括支援センター
介護・福祉の総合的な支援を行う相談窓口。専門知識を持ったスタッフに相談することができます。

その2 誰かに打ち明けてみよう

認知症であることを打ち明けるのは、とても勇気がいることです。
「だれに話そう?」「何から話そう?」「うまく伝えられるかな?」……これまでの自分をよく知る人たちに、いつ・どんなふうに話そうか、認知症だと伝えることで離れていってしまうのではないか、と悩んでいませんか?
偏ったイメージで見られたら嫌だな……と、ためらってしまうこともあるでしょう。
みんなに打ち明けなければいけないわけでもありません。誰かにあなたの状況を知ってもらえると、気持ちが少し楽になるはずです。身近な人に話すことに不安がある場合は、電話相談や地域包括支援センターなど、面識のない人に相談してみるのはどうでしょうか。
まずは、今のあなたの気持ちを、口にしてみるだけでかまいません。それが、 次の一歩につながります。

診断を受けた方、そのご家族の方

その3 当事者の視点で正しく理解しよう

一般的な認知症の定義や症状は、医療者・介護者からの視点がほとんどで、実際に認知症のある方の心と身体に何が起こっているのかを、あなた自身が理解し、周囲の方に伝えることはとても難しいことです。
認知症とともに生きる第一歩として、まずは認知症について、正しく理解することからスタートしましょう。

→ 疑問01 認知症ってどういう病気? → 疑問05 日常生活でどんなことに困るの?

その4 自分の今の状態を把握し、共有しよう

あなたは今、自分の心身の変化に気づき、戸惑っているかもしれません。
不調や違和感が気になっているけれど、見ないようにしたり、疲れや忙しさのせいにしなたりしながら、なんとか踏ん張っていたりする人もいるでしょう。
「普通にできていたことが、できない」
「今までとちょっと違うかもしれない」
「もしかして……」
こんなふうに思うこと、引っかかるような感覚を覚えることはないでしょうか?
その小さな違和感をすぐにそのまま受け入れることは、簡単なことではありません。しかし、否定したりごまかしたりすることは思いきってやめて、自分の感覚に素直になってみましょう。早めに気づくことができれば、これからできることがたくさんあるのです。

「できる」「できない」を知る・伝える

あなたが「できること」と「できないこと(難しいこと)」を知り、ご家族や仲間と共有しましょう。
たとえ時間がかかったとしても、自分でできることは継続することが、あなたが自分らしく暮らすためにも、認知機能を維持するためにも、大切です。「できることは自分でやりたい」という意志を周りに伝え、周りの方はできることを奪わないようにしましょう。
難しいことは、1人でがんばるのではなく、「この動作が難しい」「このやり方がわからない」と受け止めることから始めてみます。
そして、仲間に伝え、工夫を一緒に考え、助けを依頼する。「1人でできないこと」を「一緒に取り組めばできること」「誰かの力を借りればできること」に変えていきましょう。

→ 疑問05 日常生活でどんなことに困るの?

その5 頼れる仲間をつくろう

楽しいことも大変なことも、一緒に分かち合うことのできる仲間をつくりましょう。
まずは、住んでいる街の地域包括支援センター、または市区町村の窓口に連絡してみることがおすすめです。医師やケアマネジャーなど医療・福祉の専門職とつながれます。
役割分担ができるよう、複数人の仲間がいることも大切です。1人だけに頼ってしまうと、その人が疲れてしまったり、いなくなったりした時に、八方塞がりになってしまいます。専門職だけでなく、友人やご近所さん、あなたの住む地域で活動する人たちも仲間です。

当事者とつながる

頼れる仲間ができたとしても、時には「認知症でない人にはわからない」「不安な気持ちが伝わっていない」と、心細く思うことがあるでしょう。そんなときに力になってくれるのが、認知症とともに生きる当事者である仲間や先輩です。地域で、認知症のある方同士が交流する「本人の会」のような場を探してみましょう。そこで出会う人は、年齢や症状があなたと違ったとしても、認知症という共通点があることで、表に出しづらかった気持ちや本音を共有し、「あるある!」と共感できる時間を持つことができるでしょう。

その6 やりたいことを楽しもう

認知症の発症後も「生きがい」を持って生活している方は、認知機能の低下が緩やかになるという研究結果が多数存在します。あなたが今楽しいと思えること、やりたいことを楽しみ続けましょう。

今できることを前向きに楽しみましょう

昔は楽しめたことができなくなり、落ち込むこともあるでしょう。以前の自分とのギャ ップに戸惑い、落ち込み、悪い方にばかり考えてしまうかもしれません。でも、過去の自分や、他の人と比べていては、後ろ向きな気持ちにばかりなってしまいます。
そんな時は自分の気持ちを点検し、「何ももできない」という気持ちを「これができる!」と前向きな気持ちに変換してみましょう。
今のあなたは、昔は興味がなかったことを面白いと感じるかもしれません。苦手だと思っていたことに、思わぬ力を発揮するかもしれません。すると、見える景色がどんどん変わり、新しい出会いも生まれることでしょう。
一緒に旅路を歩む家族や仲間と話し、笑い合い、新しいことにチャレンジする「今」を、全力で楽しむ心持ちを忘れずに。

生きがいや役割を見つけて、挑戦してみる

「やりたいことはあるけど、もうできない」「だれかの役になんて立てない」。そんなふうに思い込む必要はありません。
あなたの好きなこと・得意なことを、家族、友人、周りの専門職に伝えてみましょう。
一緒にやりたいと言ってくれる人がいるかもしれません。意外な場所であなたの力が求められ、だれかの役に立つかもしれません。
自分のやりたいことが思い浮かばなくても、周りにいる仲間の「やりたい」を応援して、一緒に取り組んでみるのもひとつです。
好きなことができたり、何かの役割を果たしたりすることは、日々の暮らしの中でエネルギーの源となるでしょう。

その7 生活環境を整えよう

家の中と外に自分の居場所をつくる

あなたにとって居心地のいい場所、緊張せずにリラックスできる場所があることで、毎日をより豊かに過ごすことができます。
家の中であれば、お気に入りの椅子やクッションを、「ここでゆっくりしたいな」と感じられる場所に置いてみましょう。
家の外であれば、公園や近所の喫茶店、居酒屋などはどうでしょう。快適に過ごせる場所であればどこでもかまいません。さらに、顔見知りの人がいる場所であれば、家族も安心して送り出すことができます。

五感にやさしい生活空間をつくる

今までは快適に過ごしていた生活空間でも、認知機能の障害により、問題を抱えることがあります。気にならなかった照明が目に刺さるように感じたり、テレビの音が響くように聞こえることがあるかもしれません。
刺激や負担となるポイントやその度合いは、個人差がとても大きく、あなたにしかわからないことが多いものです。まずは、今の状態を確認し、生活をともにする人や身近な仲間たちと共有・相談を重ねていきましょう。

→ 五感にやさしい生活デザイン
混乱を生むモノ・コトを取り除く

空間・記憶・注意などの認知機能の障害により、暮らし慣れている空間であっても、家具のレイアウト、壁や床の模様、光の入り具合の変化などで、混乱が生まれたり、判断に迷ったりすることがあります。あなたにとって、どのような状態が混乱を招くのかを把握し、その原因を取り除くことが大切です。

→ 混乱を生まない生活デザイン
サインや目印を工夫する

家電のボタン表示を見ても、どう操作をすればいいのか判断できなかったり、サインやラベルに書かれた記号を理解することが難しく感じたりして、混乱することがあるかもしれません。そんなときは、あなたが理解しやすい目印をつくってみましょう。
ある方は、シャンプーとボディソープのパッケージを見ても区別がつかなかったのですが、シャンプーには「頭」、ボディソープには「体」と書いたところ、迷わなくなったといいます。文字の大きさを工夫したり、簡単なイラストや写真を組み合わせたりすることで、わかりやすくなることもあります。
どんな工夫がいいのか、他の人の知恵も聞きながら、生活をともにする人や身近な仲間たちと一緒に、相談し、実践してみましょう。

→ 大切な情報を伝える生活デザイン
スマートフォンを使って生活を楽にする

日課や約束を忘れてしまう、通い慣れた道で迷ってしまう、家の鍵をなくしてし まうなど、日常で困ることが増えてきた時は、スマホの便利な機能を上手に使うことで、いろいろなことが解決できます。操作や設定が難しい場合は、周りの方と一緒にやってみましょう。忘れてしまうことや、覚えられないことは誰にでもあります。深刻に考えず、できないことはモノやテクノロジーに頼ってしまえばいいのです。

→ スマートフォンの活用術

07 どんなサポートを受けられるの?

認知症世界ではあなたがお住まいの行政などから、様々なサポートを受けることができます。無理をして全てを一人で抱えるよりも、制度やサービスを使って、困っている部分は助けを求めましょう。

高額療養費制度:医療費のサポート

医療費がどの程度かかるのか?ちゃんと支払えるのかと不安を感じている方がいらっしゃるのではないでしょうか?
通院や入院でかかったお金の自己負担額は、年齢や収入によって支払う上限が定められており、月の自己負担額が高額になっても、この上限を超えた分は後で手続きをすれば返金を受けることができます。

高額介護合算療養費制度:医療費・介護費のサポート

医療費と介護費の自己負担が重なり、一定額以上になった場合は負担を軽減する制度があります。

介護保険:日常生活のサポート

介護保険は、40歳以上のみなさんが加入者(被保険者)となって保険料を納め、介護が必要になったときには、介護保険サービスを利用できる制度です。65歳以上の全ての人、40 歳以上の認知症のある方も利用することができます。買い物や掃除などの毎日の家事に大変さを感じてきた場合に、自宅に来てもらいサポートをしてもらったり、車で自宅まで迎えに来てもらい、施設内で他の利用者と交流したり、運動したり、食事をしたりするサービスを利用できます。

傷病給付・失業給付・障害年金: 仕事のサポート

仕事を休まなければならない、辞めなければならない場合には、病気休業中の傷病手当金を受けられる制度、失業手当金を受け取れる制度があります。また、65歳未満で発症する若年性認知症の場合、認知症の症状により、就労ができなくなったり、日常生活に大きな支障を生じてしまう状態となってしまった場合、障害年金を受け取ることが可能です。

その他の生活全般のサポート

その他にも、自治体独自の制度や地域のボランティアによるサポート、民間サービスなど色々活用できる制度があります。

国や自治体から受けられるサービス内容やその手続きは複雑でわかりにくいことが多いでしょう。
市区町村の高齢者福祉担当や介護保険担当窓口、地域包括支援センターなどに問い合わせをしてみましょう。

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