第8回 金子裕子さんの”こうしよう術”

第8回 金子裕子さんの”こうしよう術”

第8回 金子裕子さんの”こうしよう術”

「みんなで就学活動」は、支援の必要なお子さんが小学校に就学する時にご家族が遭遇する困難や悩みを知るとともに、自分たちにとってより良い選択を描きながら就学できるようにするための“こうしよう”術を、みんなで対話し、つくりあげていくプロジェクトです。
ここでは、実際に就学活動を終えられた先輩方に、リアルな経験談をお聞きし、それぞれの方の知見を”こうしよう術”としてご紹介していきます。

はじめまして、金子裕子です。京都市に住んでおり、息子の翔大は電車のパズルが得意な小学校3年生です。翔大はダウン症があり、先天性の白内障と、年中さんの時に医療ケア児になったため、小学校は市内の総合支援学校に通っています。

振り返ってみると、これまで何か「こうしたい」と願っても叶わない時には、無理にでも実現させてみようと戦うことよりも、ダメならダメで他の道を探そうとしてきました。悩むこともあるし、悲しくなるようなことを言われて戸惑うこともあるんですが、それでも抗ったり戦ったりするより、他の可能性を見つけてどんどん前に進みたいと思うんです。

保育所から始まった就学活動

 

仕事をしているので保育所を探したとき、住んでいる区の保育所ではダウン症を理由に「入れない」と言われました。見守りの人数が足りないという理由でしたが、公立の保育所で、その時はまだ医療的ケア児でもなかったのに、受け入れてもらえないのはずいぶんだなぁと思いましたね。

結局そこ以外にも、希望を出した保育所は第一希望から第三希望まで全て入れず、それを正式通知の前に、市の担当者の方が教えてくれたんです。ダウン症というだけで入所を断られてしまうようなところに無理やり頼み込んで、仮に入れてもらえたとしても、果たして息子は幸せな時間が過ごせるのだろうか?と、考えさせられた出来事でした。

そのご担当の方はとても親切に、「区が違うけど、入れる保育所がある」と教えてくれたので、すぐに二箇所の保育所に見学に行かせてもらい、とってもいい保育所と出会えたんです。公立で、乳児保育所という小さめの規模で、いい具合にのんびりしていて、隣の区ですが息子のことも歓迎してくださったんです。そこに小学校に入るまでの5年間お世話になりました。

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保育所や保育園を選ぶ際、第一希望に固執しない。
隣区であっても受け入れが可能であれば見学に行ってみる。

小学校選びでも判断を迫られて

 

小学校に入る時は、住んでいる区に戻って、初めは地域の小学校の支援級を見学に行きました。校長先生ともお話ししましたが、全然歓迎してもらってる雰囲気はありませんでした。

息子はダウン症の合併症で先天性白内障であるため、0歳の頃から治療用コンタクトをしているのと、年中さんの頃に、鼻の経管栄養を付けて医療的ケア児になっていました。また、入学時はまだ自分だけで歩くことは難しかったし、トイレトレーニングもまだで、そうした理由からなのか、「支援学校に行った方がいいんじゃないですか」と言われたんです。

ご近所の方から、その校長先生がまだ新しく赴任されたばかりだということも聞いていたので、こんな考え方をした校長先生の元では、周りの先生たちにも歓迎してもらえないだろうと思いました。保育所選びのときの経験が蘇った気持ちでした。

その時すぐに支援学校も見学に行ったところ、すごく良くしてもらいました。対応してくれた先生もとっても親切だったし、なによりも息子自身がすぐになじんでいたんです。1時間以上その先生と一緒に過ごさせてもらったりして、そんな息子の様子を見たら、迷うことなく決めることができました。

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地域の学校との価値観が合わず受け入れが難しいようであれば、
支援学校も視野に入れて考える。
本人が安心して通える雰囲気であるか、本人を連れて見学に行く。

学童選びの工夫で、他のお友達とも交流を継続

 

息子は放課後、学童に通っています。市の児童館にある学童で、障害のある子もない子も分け隔てなく過ごせる時間です。放課後デイに行くことも選択肢でしたが、今の学童なら、以前通っていた保育所のお友達と一緒に過ごせるので、息子にとって良いことだと思っています。

支援学校に通いながら放課後デイを利用すると、障害のない同世代と触れ合う機会が全くなくなってしまうのが心配でした。保育所を卒園後、違う小学校に通うお友達とも、今は学童で一緒に遊べています。

子どもたち同士って、良くも悪くもはっきり言えるんですよね。小さい頃から息子のことを、サポートが必要な子だとわかってくれてる上で、ダメな時にはダメだということもちゃんと言ってくれます。楽しい時も一緒だし、何か注意を受ける時も一緒。みんなと同じように過ごせているのが良かったと思っています。

また、息子は胃瘻(いろう)をしているのですが、胃瘻は医療行為にあたるので医療従事者が行わないといけないため、訪問看護の方が学童まで来てくださっています。小学校に入る時、「医療的ケア児訪問看護利用支援事業」が立ちあがろうとしていた時でもあり、運良く最初のケースにしていただきました。おかげで、学童に入るために特別な交渉などは全くしないで済みました。

保育所のとき、看護師の方が常駐してくださっていて、そうした援助が小学校に入っても受けられないとしたら、仕事を辞めなくてはいけないかも、と心配だったんです。所長や保育所の看護師に相談していたので、もしかしたら保育所から市に相談してくれていたのかもしれません。今は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(略、総合支援法)があるので、同じような要望は自治体を通して叶うかもしれませんね。

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小学校に入った時のことを見通して、保育所などにいるうちから
必要なことは周囲の然るべき相手に相談しておく。

支援学校に望むこと

 

事前の見学では、支援学校の授業内容や方針もていねいに説明してくれました。絵本の教科書を使うことやアクティビティが多いことなど、確かに息子もまだ勉強できる様子ではなかったですし、特に1年生のときは環境に慣れたり社会性を育むような目的で良いと思っていました。ただ今はもう少し学習要素を増やしてもらえることを希望しています。

学校によっても違うと思いますが、3年生の今も学習の時間が週に1コマだけなんです。地域の学校の支援級でも国語とかはあると思うので、プレイルームの時間や創作の時間だけではなく、鉛筆を持って机に座る時間が増えて欲しいですね。

支援学校では机上学習が少なく、身辺自立やお遊戯的な時間が増えてしまいがちで、そこはもう少し何とかならないかと思っています。将来を見越してもう少し勉強の時間を持つことや、成長を促す時間が持てるようにしていきたいです。

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学校見学のとき、上級生の授業内容も聞いてみたり、
読み書きの習得や計算など、子どもに習得してほしいと願う具体的な目標
について先生に相談してみる。

小さくも重要、SNSの活用

 

保育所も小学校も、これまでダメと断られたら他の方法を探す、ということをしてきました。いろいろ困ることもありますが、気にしていたら前に進めません。わたしがストレスを抱えていたら息子にもいい影響はないので、できる限りストレスを手放して、少しでも前に進みたいんですね。

また、ひとりで悩んでいるだけでは解決しないことも多いです。前に進むために、できるだけ正確な情報を確認するようにしています。特に何かを決断するときは、噂レベルの情報やママ友間の情報だけではなく、専門家や公的機関など然るべきところに相談して確信をもってから決めるようにしています。

その一方で、日常の小さな小さなことについてはSNSも効果的でした。同じ状況や症状の人と情報交換できるので、どのガーゼが使いやすいとか、漏れが気になる機器のこととか、本当に些細なことだけどすごく助けられました。小さな愚痴を聞いてもらってストレス発散にもなるし、上手に活用できるととても便利だと思います。

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情報は正確に、そして上手に、把握する。
地域のことや制度などに関しては公的機関や専門家に確認し、
日常的なことはSNSを活用するなど。

様々な方の就学活動を知ることで、ひとりでは”どうしよう?”となってしまいがちな就学活動も、みんなで知恵を出し合い、“こうしよう!“と思いを新たに、新しい一歩を力強く踏み出せるのではないでしょうか?次回も、ぜひご覧ください。