第1回 高橋 真さんの”こうしよう”術
「みんなで就学活動」は、支援の必要なお子さんが小学校に就学する時にご家族が遭遇する困難や悩みを知るとともに、自分たちにとってより良い選択を描きながら就学できるようにするための“こうしよう”術を、みんなで対話し、つくりあげていくプロジェクトです。
ここでは、実際に就学活動を終えられた先輩方に、リアルな経験談をお聞きし、それぞれの方の知見を”こうしよう術”としてご紹介していきます。
目次
毎朝「すき!」と言ってくれる娘
こんにちは、高橋 真(ちか)です。家族は夫と、小学校6年生の息子、2年生の娘の4人家族です。娘はダウン症と中度の難聴、あとADHDと診断されて多動もあります。言語でのコミュニケーションは助けを必要としますが、息子と同じ地域の小学校の支援級に毎日元気に通っています。この学校は国語や算数などの積み上げ形の教育は支援級で学びますが、給食や掃除などの生活面も、体育や音楽などの教科も基本通常級で障害の有無にかかわらずともに学びます。
娘の可愛いところは、毎朝「おはよう」の挨拶をするとき、続けて「すき」というようになって、毎日そう家族に対して笑顔で言ってくれるところです。たまに機嫌が悪いと、わざと言わないところなんかもとても可愛いです。
夫に協力してもらうために
夫は以前の仕事が忙しく、協力しようにも家にいないことが続いていました。娘の就学活動が始まる数年前から少しずつ、お互いの問題意識を揃えられるように、具体的に伝えることを意識し始めました。例えば上の子のとき、保育園に入れなかったらどれだけ大変かを夫が理解できるよう、事前に決めた日に有給を取ってもらい、その日に4箇所の保育園を見学したこともあります。徒歩3分の保育園には入れないと、商店街の一室のここだよ、とか、公園まで歩いて行く無認可の保育園はこういう感じだよ、とか、自分たちが毎朝連れて行くんだよ、と具体的に見せることでわかってもらうようにしました。我が家の場合はその後、夫が独立することで働き方を変えたこともあって、娘の就学活動の時はそれほど困らずに一緒にすすめられました。
就学相談員にうまく相談できなかった
就学相談の担当者さんは人当たりのいい方でしたが、私たち家族がかなえたい形にするための相談は結果できませんでした。知的な問題と聞こえの課題があるため学区内の支援級と聞こえの通級で補聴器や聞こえの課題発語等にとりくみたかったのですが、「ルール上できない」の一点張りで糸口を一緒に考えてもらうことができなかったんです。前進しない理不尽さに悲しい気持ちになりましたし、我が家の場合は地域の学校を希望する気持ちに揺らぎはなかったので、それ以上相談員さんに積極的に持ちかけることは止めました。代わりに私は、就学活動を終えた他の保護者の方や、支援の必要な子どもたちに理解のある議員さんに相談できたので良かったですが、良い相談員さんと出会えるかどうかは非常に大きな分かれ道になるとは思いました。
発達検査の結果にショックを受けた
学校選びには、親の希望だけではなく専門家の診断が必要になるため、娘も年長の夏頃、区の施設で発達検査を受けました。その時、初めはすごく順調に質問に答えていたのですが、ひとつ聞き慣れない言葉を含んだ質問が理解できず、それをきっかけに後半は全然できなくなってしまったんです。「いくつ」なら数の理解はできるのに、「何個」と聞かれて答えられなかった。普段はできることでさえ不可抗力によって「できない」と評価され、結果的にとても低年齢の結果がでました。親としては悲しいというか悔しいというかなんとも言えないを気持ちになりましたが、早めに立ち直れたのも事実です。それは現在住んでいる区では、専門家の診断よりも保護者の希望が優先されるため、娘の学校選びに影響しないとわかっていたからでした。
住んでいる地域に受け入れてもらえず辛かった
就学活動は地域による違いも大きいんです。実は以前は別の区に住んでいたんですが、自治体とのやり取りが非常に大変でした。住みやすくて良いところもたくさんある地域でしたが、うちの娘のように支援が必要な子どもに関して、特に、既存の枠組みから外れる必要があることを理解してもらうのが難しかったんです。
前の区に住んでいた頃から、娘にも上の息子と同じ学校に通ってもらいたいと思っていました。そのために息子の小学校入学から支援級がある地域の小学校に入りたかったんですが、徒歩5分の学校でも学区外ということで交渉しても剣もほろろ。他にも、療育の改善を求めてお願いに行った際、やり取りに傷つきながらがんばっても共働きの我が家にとって十分と言える改善結果は得られず、悲しい気持ちになることもたくさんありました。そうしたことに疲弊した時、道路開発の都合で自宅の立ち退きの話が出てきたことも後押しになって、引越しを考え始めました。子どもが二人とも通える小学校をインターネットで調べたり、他の地域にお住いの保護者の方に聞いたりして、結果的に息子が入学する時に今の区に引越しました。
就学活動を振り返って
大事なことは「自分たちはどうしたいかを決めること」だと思います。情報を集めて整理して、子ども本人や家族の環境から、我が家にとってよりよい選択は何かを明確にしておくと良いと思います。ただ自分たちだけの力ではどうしようもないこと、たとえば担当相談員や行政区のルールなどは、他の誰かの経験や”こうしよう”術を知ってトライしてみるしかありません。長い目をもって、しっかりと選ぶことが大切だと思います。
わたし自身は、障がいがあろうとなかろうと誰でも同じ地域で生きられる社会が望ましいと思っていますが、どういう選択をするにしても、大切なことはそれぞれの家族に合う選択ができることです。ひとつの正解の形があるわけではないので、「軋轢を避けるため」とか「慣習に従った方が良さそう」といった受動的な理由だけで希望を諦めるのは残念だと思うんです。仮にしんどくて辛い思いをしたとしても、あるいは逆に、全くストレスのない就学活動だったとしても、どちらも心の持ちようです。選んだ選択の先に、どういう風になりたいのか、という指針のようなものを夫婦間などで決めておくことが大切だと思います。
様々な方の就学活動を知ることで、ひとりでは“どうしよう?“となってしまいがちな就学活動も、みんなで知恵を出し合い、“こうしよう!“と思いを新たに、新しい一歩を力強く踏み出せるのではないでしょうか?
次回も、ぜひご覧ください。