認知症世界。この世界には、一見簡単そうに見えるのに、壁にぶつかり、袋小路にはまり、なかなか出口にたどり着かないトンネルがあるのです。
農村地帯から山を貫き、都市部へ伸びるこのトンネルは、ほんのわずかな距離の一本道。しかし、入り口から先を見通すことはできません。それはまるで、とてつもなく奥まで続くブラックホールのようです。
意を決して足を踏み入れると、あっという間に失ってしまう距離や方向の感覚。何度もぶつかってしまう壁……。しかも、奇妙なことに、通るたびにサラサラだったりゴワゴワだったり感触が異なります。そして最後には、どう身体を動かしていいかさえわからなくなり、ぼう然と立ち尽くしてしまうのです。