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社会の課題に、市民の創造力を。



      近代看護の哲学を確立したF.ナイチンゲールは、「介護・看護(Nursing)とは、患者の生命力の消耗を最小にするように生活過程を整える実践である」と説いています。

      その原理は、今も変わることなく、介護の基盤をなし、介護の営みに息づいています。複雑で変化の激しい現代。さまざまな生きづらさを抱える人や家庭が増えています。だからこそ、介護職にはこの哲学に基づく、大切な役割が求められています。

      介護とは、すべての人が本来持っている「生きる力」を信じ、限界と可能性を見定め、その力がより発揮されるよう、生活を整え、

      大切な家族とともに過ごす
      買い物や食事やお風呂を楽しむ
      仲間とはたらき、稼ぐ
      自分の望む最期の時を迎える

      その人ならではの大切な「生きる」を、ふつうの暮らしの幸せを本人と、ご家族と、そして地域社会とともに創る仕事です。




      ナイチンゲールの思想とは

      近代看護の哲学を確立したナイチンゲールは、当時最高の科学的知識を土台にして、
      『看護覚え書(NOTES ON NURSING*)』を執筆しました。19世紀頃、看護師は、
      下層階層の女性の仕事とされ、勤務態度の悪さも目立ち、家で看病・介護にあたる
      女性にも時代の慣習に従って間違った手当てが広がっていました。
      看護・介護をひとつの専門職として確立させたいと考えていたナイチンゲールは、
      『看護覚え書』を通じて、病人が、病気から回復するために必要な看護の考え方や
      視点について述べ、人類史上はじめてNursingの定義を明らかにしました。
      そして、この定義は、まさに現代の介護の本質に通じる考えでした。

      *Nursingとは、「看護」以外にも、「授乳」「保育」「介護」を表します。つまり人間が生まれてから死ぬまでのあらゆる世話を指しているのです。

      Nursingとは、空気の質や栄養の質といった生活に関わるすべての事柄を、
      “生命力の消耗を最小にするよう生活過程を整えること。”
      と、ナイチンゲールは捉えていました。
      このことによって、患者の体内で働く自然の治癒力や回復のシステムが順調に発動し、
      やがて癒しのときを迎えられると考えていました。

      ナイチンゲールは、著書の中でこう述べています。
      「Nursingはひとつの芸術である。そしてそれを芸術であらしめるには、
      画家や彫刻家の仕事と同じように、他に顧みない専心ときびしい準備とが必要である」。
      つまり、科学的知識とそれに基づく技術を習得し、かつ患者の観察と経験を積み重ね、
      一人一人の状況に合わせた適切な看護を提供していくことの大切さを説きました。

      出典:ナイチンゲールの『看護覚え書』 イラスト・図解でよくわかる! 金井一薫 著(西東社)/ナイチンゲール著作集第三巻(現代社)

      1854年にクリミア戦争が勃発。負傷兵の看護のため、
      ナイチンゲールは、シスターと看護婦の計38名の女性を率いて
      戦地へ赴きました。
      戦地の兵舎病院は不衛生かつ物資不足で、
      看護婦が従軍することへの反発もあるなか、
      小さなことから療養環境の改善を実施しました。

      現役介護職エピソード

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