issue+design

社会の課題に、市民の創造力を。

シリーズ「持続可能な地域のつくり方」02
出版記念セミナートークセッション

地域と緩やかにマインドをシェアする。地域に腰を据えて見えてきた地方創生の鍵

持続可能な地域づくりには、地域内でのお金の循環、経済のつながりが欠かせない。
著者である筧裕介が、日本各地のローカルの仕事をする中で常々思っていたことです。

一方地域のお金事情に、本業を通じて20以上真剣に向き合い続けている人がいます。投資家、藤野英人さん。

「ひふみ投信」をはじめとする個人向けの投資信託を販売するレオス・キャピタルワークス株式会社の代表取締役兼ファンドマネージャーとして日本各地に赴き、各地の経済を支える中小企業とじっくり語らい、投資という形で地域づくりと関わってこられました。

そんな藤野さんが、最近富山県朝日町に古民家を購入したらしい、という話が聞こえてきました。

今回、『持続可能な地域のつくり方―未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン』出版記念セミナーのトークセッションでは、そんな藤野さんと筧の対談が実現。持続可能な地域づくりと金融の接点についてお話を伺いました。

<登壇者>

レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役社長・最高投資責任者 藤野英人さん

特定非営利活動法人イシュープラスデザイン(issue+design) 代表 筧裕介

<モデレーター>

日本デザイン振興会 グッドデザイン賞事務局 矢島進二さん

以下、敬称略

矢島
筧さんと藤野さん、お会いするのは2回目くらいとお聞きしたのですが、今日、藤野さんをゲストでおよびした理由を筧さん、お聞かせいただけますか。


シンプルに、お会いしてみたいという気持ちでした。
まちづくりを仕事としてやってきて、お金の流れをいかに作るかというのは地域の仕事の中でも非常に重要です。でも、私自身、これまであまり金融の世界の方との接点がなかったんです。また、藤野さん自身が朝日町に実際に入られているお話を耳にしていたので、その話も伺ってみたいなと思いました。

“ご縁”をきっかけに、地域に腰を据える

矢島
藤野さんのあるインタビュー
、「能書きを垂れるよりもまず自分でやってみること」「日本の地域を元気にしていきたいと思うのであれば、具体的にどこかの地域に行って実際にコミットしてみたい、すべきだ」というお話をされていたと思うのですが、そう考えるようになったきっかけとなるようなエピソードがあったのでしょうか?

藤野
20年間、地方には年間100日ぐらい足を運んでいて、行ったことのない県はありません。投資対象は日本中にあるので本当にいろんな地域に行くのですが、私の仕事は、どうしても外部から行って総論的な話になってしまいがちだと感じていました。

そのため、いつの頃からかある地域に腰を据えて、いろいろな人とつながり話をしながら各論のところを深めたいという思いが芽生えていました。

藤野
そんな中でたまたま朝日町の知らないひとからFacebookメッセージが来たんです。朝日町について、富山県出身者ですが知らなくて(藤野さんの出身は富山県富山市)最初はあまり興味が持てませんでした。

でも、セミナーの登壇などで富山に行くたびにその知らない人−−坂東さんという方なんですが−−坂東さんが来てくれて是非とも朝日町は面白いところだから来てみてほしいと口説き落とされて。実際に行って彼の取り組みなども聞いてみることになったんです。

坂東さんは、町にたくさんある空き家をリノベーションして、都会での仕事に疲れてしまった人などを呼んできて住まわせる、ということをしていました。移住した人は風光明媚で空気も水も綺麗なところでのんびりと半年とか暮らしているうちにみんな元気になって、むしろその地域の中で仕事もし始めたりする。そうした活動を3、4年ほどやっていくうちに、実際に朝日町では空き家が増えないようになってきた、というのです。

もうすでに、地域で汗をいて地域をよくしたいと頑張っている人がいたこと、元々は知らなかったものの富山県という広範囲で捉えれば私の地元とも言えるエリアだったこと、などから、どこかの地域に腰を据えるきっかけとしてはいいなと思いました。

しかも、なんと坂東さんはすでに私に合うという空き家を用意して待っていたのです(笑)。そんなきっかけから朝日町にもう一つの拠点ができたのです。

新潟県との県境にある、富山県朝日町で藤野さんが購入された古民家。

2階建てで居住面積が広く、合宿やセミナーも開催が可能


今の話を聞いて、とっても親近感が湧きました。自分と一緒だ、と思うところがいっぱいありました。

僕も高知県佐川町に6年行っていますが、元々は縁もゆかりもなく知らなかったし、お酒も弱いので、正直高知で仕事をするのはしんどいと思うこともあるんです(笑)。

でも、町長が僕の本を読んでくれて、会いたいと東京に来てくださり、丸1日じっくりとお話しをさせていただく機会がありました。「それなら一度行ってみようか」というところから、それをきっかけにその後6年も佐川とお仕事をすることになったのです。

自然豊かな文教のまち、高知県佐川町


色々な地域と関わる仕事していると、限られた期間でどこか総花的につきあうという仕事になりがちです。そんな時に、アクセルを踏んでどこかの地域に入り込むためには、ウチから引っ張ってもらえるご縁がすごく重要だと感じています。

「多拠点居住」の本質は、ひとりのマインドを各地域がシェアすることにある

藤野
私は、これからの暮らしは「多拠点居住」の方向になっていくと思います。
どこかひとつの地域に住む、というのがこれまではあたりまえという思い込みがあったかもしれませんが、空き家が増加して1人でも複数の家を持っている人も増えています。そして、テレワークが整備されることによって多拠点での暮らしは以前より容易になっています。

こうした、多様な形で地域とつながる関係人口をどう増やすかを考えることが地域が元気になるための鍵だと思うのです。魅力的な地域とは、なにも魅力的な観光地があることだけではないですよね。

多拠点居住があたりまえになることでそれぞれの人の「多拠点」のひとつに選ばれることが重要で、各人のマインドをいかにシェアできるかがポイントになると考えています。

矢島
筧さんも仕事で全国各地を訪れることが多いと思いますし、また長年関わっている佐川町の他にも、オフィスや自宅のある東京、
issue+designの創業地である神戸、その他にも千葉県いすみ市など、いくつかの拠点がありますよね。実際に多拠点居住の実践者として、思うところなどありますか?


藤野さんのマインドシェアの話は、これまで交流人口の話をいろんな方に伺ってこんなに納得がいったのは初めてかもしれません。非常にわかりやすいです。

交流人口の話とか多拠点居住の話は、一般的にいろいろなところに軸足を置きながら根のない生活をするような話になりやすい。でも、僕自身、実際に多拠点と関わる中で決してそんな薄っぺらい話ではないと感じています。

ローカルに深くコミットして暮らすには、やはり覚悟がないとできないことだと思っています。観光でふらっと回る多拠点とは違う、新しい多拠点のあり方というのが次世代の生き方になっていくのではないかな、とお話を聞いて改めて思いましたね。

「希望最大化戦略」と「失望最小化戦略」


僕が迷いながらやっていて、自分の中でまだ結論が出せてない問題があるんですが伺ってもいいですか。

「地域にはチャレンジさえできれば成功できる機会はいっぱいある」という藤野さんのお話はまさにその通りだと思います。一方、日本全体でチャレンジする人材が減っている、日本の教育システムに問題があるんではないか、そんな議論があると思います。

僕自身、確かにそう思うこともある一方で、実際に僕のまわりには駄目だと言われる詰め込み教育を受けてきたにも関わらず、様々なチャレンジをしている仲間がいっぱいいるんですよ。

そういう状況を見ると、本当に今の日本の仕組みや教育が問題なのか、チャレンジする人材を増やすためには、どんな策が考えられるのか、藤野さんのご意見を聞かせて頂きたいなと。

藤野
私は、日本人には2種類の人種がいると思っています。
ひとつはここにいる人たち。ここにいる人たちはだいぶ変わった人たちです。夜にこんなところにご飯も食べないで来て話を聞いている。みなさんは「希望最大化戦略」の人たちなんです。希望を持って努力したり挑戦したり勉強したりすれば希望が膨らむことによって良い社会になると信じている人たちなのです。

でも、皆さんの職場に多く潜んでいるのは失望最小化戦略の人たち。努力して挑戦するのではなくどれだけ失望を少なくするのかっていうことが人生の軸になっている人たちが日本ですごく増えている。失望を最小化するのはどうすればいいか、って一番いいのは挑戦しないことですよね。

告白したら、振られるかもしれない。
英語勉強しても、外国で恥をかくかもしれない。
転職したら、給料下がるかもしれない。
買ったら、ローン払えなくなるかもしれない。
何か挑戦をしてもうまくいかないだろう、と予測する人たちは根本的には何もしない。

貯金をして、消費をしない。それでなんとかしのごうと思っている人たちが増えている。この人たちがデフレの元凶なんです。

ではどうするか。確かに教育による再生産もあると思うし、親が子供に教えることもあるかもしれない。

でも、私の戦略は、変わった人たち、つまり希望最大化戦略の人たちをもっと増やすということです。

熱量をもっとあげて、希望最大化戦略に「そうかもしれない」と少し共感し始めている人を「そうだ」という確信まで持っていく。

その人たちにより行動してもらって、熱量が上がれば、筧さんの書籍の中にもあるように、地域に様々な熱が発生し、挑戦の風が吹くのです。僕はそういうことが起きると信じているので、未来は明るいと思うんです。

地域の時間間隔とグランドデザインの描き方

矢島
参加者の皆さんからいただいた質問からひとつお聞きしたいんですが、「地域づくりをしていくにあたり、5
年、10年と継続拡張させていくためのグランドデザインをどう考えたらいいのか、気をつけること、注意されていることをお聞きしたいです」とのことなのですが、藤野さん、いかがでしょうか。

藤野
私は筧さんが書籍の中でも紹介してい
佐川町でつくったみんなでつくる総合計画が素晴らしいと思っています。みんなでつくるというのが絶対大事。

また、東京から移住などで地方に来た人は絶対に焦らないということが大事。私は東京からきてパパっとやって成功した例を見たことがありません。

東京と地方ではペースがちがう。本当にゆっくり、じっくりと多くの人を巻き込みながらやると、最初の立ち上がりは遅いけど、3年、5年後くらいから上向いてくると思います。ポイントはじっくりとやる、あきらめないということですね。


僕も個人の立場としては藤野さんのおっしゃる通りだと思います。6年佐川町で事業をやっていますけれど、最初の頃は早く成果を出したいから自分でも追い込んで面白いものを作って、早くみんなを巻き込んで
とやったけれど失敗した、みたいなことも経験しました。

時間感覚が東京と地域ではすごく違いますね。ようやく3年目くらいにそこに気づきはじめ、そのペースの中で色々なことが回りはじめました。

一方でグランドデザインをつくるというお話ですが、この考え方も東京と地域では方法が全く違うと思っています。

東京、特に企業の中長期ビジョンをつくる際には、「選択と集中」が大切で、尖っていて他者と差別化できるものをつくるというのが基本的なやり方だと思うのですが、地域ではそれは絶対に上手くいきません。

みんなの考えが、緩やかにふんわりと同じ方向を向いていれば十分なのです。あなたがやろうとしていることは町のビジョンとはちょっと離れているから違うよねみたいな感覚は全くありません。

個人がやりたいことが少しずつ重なって、その集合体としての町の未来があるという感じが望ましいと考えています。それが地域でまちづくりや地方創生のプロジェクトに関わるときと、大都市での企業のグランドデザインをつくるときとの、大きな違いだと思います。

矢島
ありがとうございます。最後にこの書籍から僕が一番印象に残ったフレーズをご紹介したいと思います。

「地域とは、動的平衡状態にある一つの生命体であると同時に、無数の生命体が集まりつながり循環している生態系である

本日はたくさんの方にお集まりいただき、ありがとうございました。

 

(文責 issue+design/担当 瀬尾 裕樹子)

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