issue+design

社会の課題に、市民の創造力を。

シリーズ「持続可能な地域のつくり方」01

地方創生への一人ひとりの挑戦を後押しする、暖かな知恵と再現可能なサイエンス

2019年5月、issue+design代表・筧裕介が書籍『持続可能な地域のつくり方―未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン』を発表しました。

本書は「地方創生×SDGs」をキーワードに、知識編と実践編にパートを分け、インタビュー記事や、具体的に技術を伝える記事も織り交ぜ、持続可能な地域づくりのための実践的なアプローチを示しています。

またこれに関連してissue+designでは、株式会社プロジェクトデザインとカードゲーム『SDGs de 地方創生』を共同開発。ゲームを用いたワークショップを通じ、地域づくりの担い手の人材開発も行っています。

今回は本書の読者であり、『SDGs de地方創生』ゲームとも関わりの深い株式会社New Stories代表/元・総務大臣補佐官の太田直樹氏をお招きし、弊社・筧との対談を開催。

「地方創生×SDGs」の未来について語り合っていただきました。

(聞き手:issue+design)

“暖かな知恵”がまとめられた「ありそうでなかった作品」

—『持続可能な地域のつくり方』の発売から間もなく、太田さんにはAmazonのレビューを投稿いただきました。そこでは本書について『著者である筧裕介さんの「暖かな知恵」が、あなたを照らし、豊かな未来の可能性を示すだろう』と綴られています。

太田直樹(以下、太田) 
率直な感想は、これまでにありそうでなかったスタイルの作品だということです。

複雑なものを複雑なまま、あるいは、複雑なものが矮小化されている、といった地方創生関連書籍がたくさんあるなか「複雑なものをわかりやすく伝えている」という意味でそう思ったんです。

筧裕介(以下、筧)
ありがとうございます。とてもうれしいご意見です。

太田 
『持続可能な地域のつくり方』というタイトルも一見すると、ごく普通なタイトルじゃないですか? でも読んでみると読み応えがあって驚きました。

筧さんがこれまでのご経験で培われた知識・理論に基づいた“サイエンス”がしっかりと体系化されていて、そんな思いを「暖かな知恵」と表現させていただいたんです。

しかもこれまで筧さんが培われた“暖かな知恵”を難しい状態のまま書くのではなく、背景としてのファクトもしっかりと押さえたうえで、数々の参考文献に裏付けられた知識も直接出すのではなく、自然な形で伝えている。

さらに、本の中にはデザイン思考やシステム思考のエッセンスも散りばめられていて、実際に地域でこの本で得た学びを活かしていきた人達がさらに深く学んでいけるようになっている。だからこそ、この本を本当に必要とする地域の担い手に届くのではないかと思いました。

筧 
副題を『未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン』とした通り、本書の肝は、地域を1つの「生態系」だと捉えた点だと思っています。

原稿をまとめていくにあたって本の中でパート2にあたる「コミュニティ」「ビジョン」「チャレンジ」「教育」という4つのアプローチを強調すべきであろうことは構想段階から思い描いていたのですが、それをどうわかりやすく落とし込めるのかずっと考えあぐねていました。

そこで、生命科学、生物学関連の文献をとにかく読み漁りました。地域=生命体として捉える考えを深め、そのアプローチを表現する方法を固めるところが最も苦労したところです。

その結果として、「コミュニティ」「ビジョン」「チャレンジ」「教育」を「持続可能な地域に必要な4つの生態環境(土・陽・風・水)と表現し、各々の実践法をまとめています。

太田 
もうひとつは、具体的な実践のスキルについて、こんなに公開しちゃっていいのか!と思うくらい本の中で明らかにされていることです。

新しい何かを創りたい。現状を変えたい。面白いことを仕掛けたいと考える人が、共に活動してくれる仲間と目標を定めたり、具体的な動き方を決めていくクリエイティブな場において、ディティールが非常に重要ですよね。

そこを明かす、ということは、この本の読み手に実践の技術を本気で伝えたくて書かれたことがわかります。


ありがとうございます。僕にとってこの本はこれまでのローカルにどっぷり浸かっての活動から社会課題の解決に軸足を移していくという意味で卒業制作のようなものだと思っています。

10年間の活動の中で得た気付きや学びを、これからローカルの課題に挑戦していく次の担い手である読者に残さず、伝えよう。という気持ちで書き上げました。

太田 
私は紙の単行本と電子書籍の両方を購入したのですが、圧倒的に単行本のほうを読み返すことが多いんですよ。

パラパラとめくっているだけで楽しいし、読んでいて気持ちが良い。目を通しているだけで楽しくなる本だと思います。読みやすさという点も熟慮されたのでは?

筧 
そうですね。デザインへのこだわりもこの書籍のポイントです。通常は執筆者とデザイナーは明確な役割分担の元で書籍づくりを進めると思います。僕らは書籍の構想段階からデザインを同時並行で考えます。また、今回は特にわかりやすさ、使いやすさにこだわったため、書籍の組版(文字のレイアウト)を先に決めて、そこに直接原稿を書き入れるという方法をとりました。

見出しやイラストの配置など、読者にどう見えるか、伝わるかをとにかく意識して原稿を執筆しました。こうした作り方をする著者はあまりいないかもしれません(笑)。

太田 
行動する人のモチベーションをつくる本だな、とも感じました。終章は特にそうですね。本を読んだ一人ひとりが、「何故自分はこの地域にコミットするのか?この源はなんだろう?」と考えるきっかけにもなりますね。

これからは「地方創生×SDGs」で未来共創が起こる

——本書のテーマは「地方創生×SDGs」。なかでも、SDGs視点で地域課題を整理する「SDGsイシューマップ」は読者からも好評です。このマップの開発経緯を教えてください。

筧 
地域課題は「あれも、これも解決しよう」ではたいていの場合うまくいかないものです。現実的には「あれか、これか…」であり、その点でイシューマップは、地域課題全体を見える化し、その相関からレバレッジ・ポイントを発見できるツールになると思います。

太田 
SDGsイシューマップは、サークル型であるのが大きな特徴ですよね。

筧 
はい。SDGsは17のゴールが設定されていて、それぞれのゴールが切り離されている、別々のものだと認識されがちです。「チャド湖」の例(本書42ページ)も示しているように、各ゴールが内包するローカルイシュー同士はたいへん密接に関連していて、その関連性がわかると何から着手すべきかがわかってきます。

そのためには問題の解決策立案に向けて頻繁に使われる「ロジックツリー」ではなく、縦割りに分断されないサークル型である必要があったのです。

太田 
大人は得てして樹形図のようなツリー型でものごとを考えてしまいがちです。役所や企業の組織図にもそれが表れているかもしれません。ツリー型はわかりやすいのかもしれませんが、その反面、役割分担がはっきりし、せっかくの関係性が分断されてしまいます。

SDGsにしても地方創生にしてもネットワークで捉えることがとても重要で、ツリー型に分断して各々の専門性で解決していくものでは決してない、と私も考えています。


おっしゃるとおり、専門性を高めることに価値がある時代はとうに過ぎたと感じています。仕事にしても地域にしても要素分解をして各役割を決めたほうが断然ラクだし、日本ではそれが長らく続いてきましたが、それが今の時代は機能しなくなっていますよね。

太田 
その点、SDGsイシューマップはとてもよい発明ですよね。現実にはあれもこれもはできない。という中でレバレッジポイントをあぶり出す助けとなるうえ、色んな意見、時には反対意見も出るなかで、その選択をすることで全体が好転するんだという説明もしやすい。

これさえあれば、地域課題の多様な当事者たちが課題解決に向けて連携し、共に実践していく「未来共創」の一助になるでしょう。

太田
どんな思いでこのゲームを作られたのですか?

筧 
このゲームも書籍と同様、「地方創生×SDGs」のプレイヤーを増やすための“サイエンス”として開発しました。太田さんにもゲームの体験会に来ていただきましたね。

ゲームのことをとても気に入っていただき、太田さんが開催されるチーム合宿にも取り入れたいとファシリテーターにもなっていただきました。

太田 
合宿では2回ゲームを行いました。参加者は経済や観光、建設など様々な領域の専門家で、自信満々でゲームを始めたのですが、それぞれが専門性を発揮しようとしたばかりに惨憺たる結果で、みんな口々に「こんなはずはない!」と文句を言いながらも大盛り上がりでした(笑)。

2回目にやったときは、改めて地域の一員としてゲームの世界に向き合ったので良い結果を得られたと思いますが。

筧 
やはり専門性だけではどうにもならないですね(笑)。

太田 
でも「自分は財政の専門家だから」「環境の専門家だから」といった人たちが集まって結果的にまちを悪い方向へ導く——そんなゲームに似たような状況が実際の地域でも起こっているのだと思います。

『SDGs de地方創生』を体感しないとわからない、貴重な“感覚”を得ることができました。

筧 
よかったです!実は2013年に『持続可能な地域のつくり方』と同じ英治出版から『ソーシャルデザイン実践ガイド 地域の課題を解決する7つのステップ』を上梓しているのですが、その本は「自分で社会課題に対する取り組みを実践したい人」向けに執筆したんです。

『持続可能な地域のつくり方』はそれの「地方創生版」だったんですが、実際に書き始めてみると「じゃあ、実際にこれをやるのは誰なのだろう?」という疑問が生じてきました。

太田
行政なのか、起業家なのか、教育機関なのか——。


はい。結論としては、地域の担い手は「いろいろな人が、いろいろなかたちで関わればよい」ということでした。

だから結果的に本書の想定読者が誰なのか、わかりにくいかもしれません。

太田
とても重要な視点ですし、そのことは読んでいて十分に伝わりましたよ。
限られたリーダーに向けた本ではなく、いろんな立場の人に地域への参画の機会が開かれている。

いろいろな人が、いろいろなかたちで関わることで、よってたかって地域を変えていくイメージですね。

筧 
日本中どこにいっても抱えている課題はまったく一緒で、違うのは「誰がいるか」だけだと常々思っています。

島根県隠岐郡の海士町にしても最初は町長を含めた数人のメンバーから始まり、徐々に仲間が増え、日本国中から注目されるようなまちづくりを成功させました。

しかし最初のキーマンは得てして孤立無援になりがちです。結果として討ち死にするようなことが起こるかもしれません。

私は本書やゲームにちりばめた“再現可能なサイエンス”を通じて、そんな「1人目」を手助けして、2人目・3人目を作っていきたいと考えています。

本日は貴重な機会をいただき、どうもありがとうございました。

 

(文責 issue+design/担当 安田 博勇 )

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