気候危機+DESIGN

interview

1200年続く京都の文化に何が起きているのか

京都府京都市より

2023.05.08

SDGs

生物

少し前まで、海外からのインバウンド観光客で溢れかえっていた京都。日本のものづくり、伝統工芸、地場産業の集積地でもあり、夏は暑く冬は寒い日本らしく風光明媚な景観と、1200年以上におよぶ歴史が育んだ京都の文化に惹かれる人は国内外を問わず多いはずだ。

京都のものづくりの現場の開放と交流を目的としたイベント DESIGN WEEK KYOTO を手がける北林功さんによれば「そんな京都の文化も近年の気温上昇により存続の危機に晒されている」のだという。

長い歴史の中で連綿と育まれてきた日本文化と気候変動に一体どんな関係性があるというのだろうか。

人間が崩すエコシステムが
気候変動に弱い森をつくる

気候変動による文化への影響について話をお伺いしたい、とご連絡すると、兎にも角にも「伝統工芸などを含むものづくり、地場産業というのは基本的に自然と一体化しているものなんです」と北林さんは教えてくれた。

 

日本の森林は人工林が多くありますが、例えば竹細工は、竹を栽培して加工することで完成する工芸です。また、藍染は、広葉樹などの木灰や灰汁(アク)を染色に使います。こうした自然の摂理を利用した人間の暮らしと一体にあるのが地場産業なのです。だからこそ、近年の気候変動で地場産業への影響を感じているのは、まずは原材料のところが大きいですね。

 

栽培が比較的短期間なことやしなりなどの物性、静電気を起こさないなどの特徴から、竹を使った道具は茶の湯などをはじめとしてさまざまな伝統工芸の道具や建材としても使われてきた。しかし、その繁殖力の大きさから放置すれば他の植物を枯らしてしまったり土砂崩れに繋がったりする心配もある。

 

1970年代以降、農家の高齢化等によって竹林の管理放棄が進み、近年では竹林の荒廃と周辺への拡大が深刻な 問題となっている(柴田,2010)。実際、兵庫県では、竹林に隣接する休耕地などに竹が参入することで他の樹種が減少したり、竹林を形成することで地面が暗くなり種の多様性が低下する、いわゆる竹林への置き換えが起こっている(山口・井上,2004)ことが知られているし、その後の調査でもこうした竹林の拡大により既存の植生へと竹が侵入し、生物多様性の衰退が各地で進行していることもわかってきた(鈴木,2010)。

 

ある一定の状況に合わせてかつて植えられたこれらの竹林は、人間が使うことではじめてその役割を担うことができるが、使われなくなれば生態系への悪影響として人間に帰ってくることもあるのだ。

 

また、すでに国内での原材料調達を諦めそのほとんどを海外に依存している原材料もあるという。

 

漆は調達を9割方を海外、特に中国に依存しています。もともと東アジア・東南アジア全域的にさまざまな種類の漆がそれぞれの地域の工芸に使われてきました。日本では一年で樹の幹全体に傷を付け、うるし液を採り切り、その後木を切り倒して新たな木を育てる「殺掻き(ころしがき)法」が主流で、その土地の中における循環型の仕組みです。中国は国土が大きいので天然に生えている漆の木から採取しています。

 

日本での生産は需要の2%をまかなう程度になっていて、中国には今は漆の木はまだあるかもしれないけれど、資源は有限ですからやがて採れなくなったり、日本と同じように採る人がいなくなるときが来るかもしれない。さらに気候は変動していますから、もう一度同じ場所で栽培したいと思っても昔の知見で育てられるのだろうか…という懸念もあります。

元々、縄文時代に中国から渡ってきた漆文化ではあるものの、国内でも生産するようになり日本は独自の漆文化を築いてきた。林野庁の森林・林業白書によれば1980年頃には6.6tあった漆生産だが2018年までの40年弱で2tを下回る状態まで減っている。

 

漆芸も、漆を採る人、加工する人、お椀を作る人、塗る人、そこに絵を描く人…と非常に細分化された職人仕事の世界。ものづくりの世界は漆芸に限らず非常に分業化されているが、ものづくりは一人だけでも、人間だけでもできず自然と共生しながら生態系を維持しないと持続できないということを、まさに表している話ではないだろうか。

殺人的な夏の暑さ
祭りに待機する救急車

昨今の気温上昇に伴う夏の暑さは、京都の暑い夏をさらに暑くしていた。7月に1200年つづく京都の祇園祭に関わる北林さんは、祭り存続への影響も心配している。

 

本来は夏に疫病が多かったので厄払いのためにはじまった祇園祭なのですが、猛暑のために、祇園祭の巡行には救急車が待機しています。人命を救う厄払いのためにはじめたのに、それで人命にもしものことがあったら本末転倒ですから。

 

数年前から昔ながらの祭りの形が復活した祇園祭では、7月の1カ月間、何らかの催しが京都の随所で行われる。17日と24日には京都の洛中を一周する山鉾巡行が行われるが、朝早く出ても一周する頃には本当に暑くて大変な巡行なのだという。

とはいえ、1200年厄払いのために同じ時期に開催してきた祭りの時期を変えるという議論は簡単には進まない。

 

旧暦に戻したら1ヶ月早まって6月になるのでまだ涼しいのではないかという考えもあります。でも、温暖化による梅雨の豪雨も懸念されるため、動く美術館とも言われる歴史的文化財を扱う祭りの難しさもあるのです。続けるのも時期をずらすのも、関係者にはものすごい葛藤があります。文化は自然環境の中における人間の日々の営みが育むわけですから、もはや人間の営みそのものを考え直さないといけないのかもしれません。

 

実際、2018年には毎年7月24日に行われてきた、花傘巡行が猛暑のために先の大戦以来はじめて中止されるなどのニュースもあった。

暦通りに巡らない季節

北林さんは、京都がこれだけ地場産業が盛んな文化都市として発展してきた理由として、四季の移ろいがはっきりしていて鮮やかなことがあげられると考えている。

 

前述したように、僕は自然と文化は一体であると強く感じています。冬、雪に囲まれ日照時間も少ないフィンランドで家の中のビビッドなインテリアを楽しむ文化が育まれたように、京都で京都の文化が育まれた背景には四季の移り変わりの激しさがあるんです。

 

もちろん、これまでも気候の変化とともに変化してきた文化もあるのかもしれない。しかし、人が死んでしまうかもしれないほどの環境の中で果たして文化は育つのだろうか…と北林さんは心配する。

 

京都には昔から断熱構造の家がありませんでした。基本的に風を通して暑さを凌ぐことを優先していた。でも、他の地域でもそうだと思いますが、エアコンの普及とともに断熱構造の家に変わっていきました。それによって町家は1日に何十軒という勢いでなくなっています。これによって前述したような竹などの伝統的な建材は使われなくなります。

 

京都の暮らしと結びついた文化的な景観である町家も、気候変動とともに観られなくなる日が来るのだろうか。

もちろん、町家の文化的景観を守ろうとする動きもあって、現代の暮らしに合った町家をつくるような取り組みやリノベーションによる活用事例もあります。でも、法律に合わせると新しく作るよりもお金がかかったりしてしまう。古い建物で古い街並みをそのまま使い続けるのは、車社会化した現代において消防面での問題などリスクも伴いますし、現代の気候には合っていません。しかし、どうやったら持続的に文化や景観を未来へと繋いでいけるのか、社会の仕組みもお祭りも、法律も、そもそも人の価値観そのものの見直しが必要なのかもしれません。

 

地場産業といいつつ海外原料に頼るのではなく、地元で原材料を調達し、そのために地元の森や水源を整備することで循環資源を手に入れる。日本の地場産業は自然環境と一体だからこそ、これからの時代にあった価値を生み出せる可能性を秘めている。それができればこれほどの先進産業はないのではないか、という北林さんのお話しが非常に印象的であった。

 

冒頭で地場産業は自然と一体であると話した北林さんの言葉がインタビューを終えた今、ずっしりと重く感じられる。変わりゆく気候や自然環境のなかで私たち人間も生態系の一部であると自覚しどう適応できるかが、人と自然の営みが育んだ文化を未来へと継承することにつながるのかもしれない。

取材協力

北林 功/COS KYOTO株式会社 代表取締役・コーディネーター

大阪市立大学(現・大阪公立大学)法学部卒業後、2002年に大阪ガス株式会社に入社し、京都でエネルギー関連設備の営業に従事する。2007年からは株式会社グロービスにて、人材育成コンサルタントとして活動。その後、2010年に同志社大学大学院ビジネス研究科に入学し、「文化ビジネス」を研究。同大学院修了後、「COS KYOTO」を設立し、「自律・循環・持続する心豊かな社会を実現する」というビジョンに基づき、地域に根づいた産業を軸に文化交流プログラムや企業研修など、数多くのプロジェクトを進行。
2016年より「DESIGN WEEK KYOTO」を立ち上げ、モノづくりの現場での交流をベースとした地域イノベーションを促進している。