気候危機+DESIGN

interview

白銀の北の大地に今に何が起きているのか

北海道南富良野町より

2023.04.15

SDGs

生物

北海道中心部に位置する南富良野。大雪山国立公園、日高山脈、夕張山地、石勝高原と四方を山々に囲まれ、面積の95%が森林、標高800m〜1,000mの山が連なる山岳地帯には最良のドライパウダーが降る。内陸性の気候のため積雪量はさほど多くないが、スプレーのように舞い上がる美しい雪を求めて、日本中からスキーヤーやスノーボーダーが集まってきている。


しかし、北の大地の冬景色が少しずつ変わり始めている。もっとも顕著な変化は台風の上陸だ。これまで北海道には台風が上陸しないと言われていたが、2016年8月に大型台風が相次いで北海道に上陸・接近。北海道の天候に大きな影響を及ぼした。 8月17日に第7号が上陸したのに続き、21日に第11号、23日に第9号と、わずか1週間の間に3つの台風が北海道に上陸した。


一体、北の大地に今、何が起こっているのか。本インタビューの聞き手の一人であり、issue+design代表の筧は、この南富良野の地に約20年通い、毎年1月にこの地の雪山を登り続けている。この20年に自分なりに感じている気候と自然の変化をより鮮明に理解するために、毎年ガイドをお願いしているゆきのこの福田博之さんにお話を伺った。

消える雪、
短くなる冬

雪のコンディションや降る時期がどんどん変わってきてますね。昔は12月からある程度の量の雪を期待できましたが、最近は12月は厳しいです。二週間くらいシーズンインが遅くなっています。また、1月の雪のコンディションが良かったのですが、一月でもぎりぎり悪くなり、。三月の前半くらいからはべちゃっとした雪が降るようになりました。

 

南富良野の雪は、天気予報などでもよく聞く「西高東低」と呼ばれる冬型の気圧配置が崩れ、水蒸気となった水が北西風に運ばれ、北海道中部の山脈にぶつかり、その東側の十勝エリアに降り注がれることでできるる。

しかし、年々、こうした冬の風の吹き方が変わりつつあり、ここ数年は南岸低気圧が北海道を通過しているとのこと。暖気を伴う南岸低気圧がもたらす風は多くのの水分を含むため、水分を多くベタっとしたべ雪になる。

 

「気温や雨・雪の振り方の変化によって、雪崩のリスクは高まっている」。南富良野の山々と共に生きてきた福田さんはそう語る。

 

気温の急激な変化は雪崩発生のトリガーの一つです。何年か前に-30℃の日が数日続いてそのあと0℃まで上がったことがありました。その時に、私も少し危ない思いをしました。

 

降雪量や降雨量、気温差が激しくなることで、雪崩のリスクも高くなる。気温差は、地表に雪の層をつくる。この雪の層がずれることで、雪崩が発生するのだ。

冬という季節も短くなりつつある。そして春の到来が早くなった。「以前は雪解けの時期はゴールデンウィーク空けて2週間後くらいがピークでしたが、ここ数年でGWがピークになってきていますね。昔は3月を冬だと認識していましたが、今ではもはや春ですね。」

 

冬が短くなることは、川の水量にも大きな影響を与える。春から秋にかけては、その時期に降る雨に加えて、冬季の雪が解けることにより川の水量は保たれる。例年であればゴールデンウィーク前後から雪解けが始まるのだが、雪解けがどんどんと早くなっていることで、川は水量を保つことができない。

 

実は、年間のトータルの降雨量(降雪量を含む)は大きな変化はない。しかし、その降り方が大きく変わっている。適量の雨が適度な間隔で降るのが本来は望ましいのだが、近年はバケツをひっくり返したような大雨が降る頻度が増し、逆に雨が全く降らない期間が増えている。

 

この結果、年間の降水量は変わらなくても、一時的に川の水量が溢れる暗い多い時期と極端に少ない時期が発生してしまうのだ。日本全体で見ると、安定的に雨が降るのが梅雨の時期なのだが、北海道には梅雨が訪れない。そのこともあり、春先から夏にかけてずっと水が不足しているような状態で、川は悲鳴をあげている。

植物や昆虫が
教えてくれる臨界の変化

気象の変化は自然界にも顕著な影響を与えている。

筧さんも何度も登られている三段山の上部は森林限界なのですが、このエリアの植生も変わってきている気がします。以前はあまり見られなかったハンノキがかなり成長してまして、段々とバックカントリーで滑り降りるのが難しいポイントが増えてきています。

 

ここ15年〜20年くらいカメムシの大量発生に悩まされている家が増えてますね。うちもすごいです。秋になると家に数万匹単位で侵入してきます。家の中で越冬した虫が卵を産み子が生まれ成虫になり、野に戻っていく。こいつらが越冬のために、秋に帰ってくるんだと思います。昔はそんなことはなかったんですけどね。あと、南富良野でも最近、カブトムシが採れるようになりました。クワガタは昔から取れていたのですが、カブトムシはほんとここ最近ですね。

昆虫や植物だけではない。感度の高い魚や動物たちは既に動き始めている。

 

北海道では今、南方の魚であるぶりがたくさん釣れるようになりました。昔はまったく釣れなかったシイラも釣れるようになりました。

 

気候変動の大きな影響の一つは、動植物や昆虫の生息地の北上化だ。温暖化の影響により湿度や気温が代わり、これまでと同じ適切な気温や湿度を求めて、ここ数年でさまざまな動植物や昆虫が北部に移動をしている。

 

非営利組織「The Nature Conservancy」とワシントン大学の調査によると、海面上昇と気温上昇に対応して、アメリカでは2,900種類を超える鳥類、哺乳類、両生類が移動をすると言われている。「Migrations in Motion」上では、赤色は哺乳類、青色は鳥、黄色は両生類で色分けがされており、移動予測を読み取ることができる。

 

 

これは対岸の火事ではない。同じことが日本でも起きている。グンバイヒルガオ、サンゴ、みかん、チョウやカメムシ、セミから虫えいを形成するタマバエ、侵入害虫であるミバエ、ゾウムシ、アザミウマ、ニホンジカ、ニホンザル、イノシシ。さらには世界的に問題になっているマラリアを媒介する蚊。

 

気温上昇と共に北へ北へと移動する様々な動植物たち。あらゆる生物が北海道へと移動する日もそう遠くはないかもしれない。

姿を変える北海道の産業

北海道といえば、広大で豊かな自然環境を活かした第一次産業が人々の暮らしを支えている。スイートコーン、かぼちゃ、玉ねぎ、生乳、小麦、小豆、てん菜。これらは全て生産量日本一の作物だ。

 

ジャガイモも生産量日本一の作物のうちの一つ。日本におけるジャガイモの総生産量の内、77%と圧倒的なシェアを誇り、190トン余りが北海道で生産されている。

 

土の表面が凍り、土が冬でも温かいままになっています。取り損ねたジャガイモが越冬するようになり、せっかく次の春に新しいジャガイモを植えてもうまく育たなくなることもあります。土の中の越冬したジャガイモが養分を吸収してしまっているんでしょうね。

 

南富良野では道内全域のジャガイモの種となる「種芋」を育てている。作られた種芋は十勝などのより広い場所で生育され、野菜として全国に流通するだけでなく、大手食品メーカーなどの手でポテトチップスなどの加工品として流通する。

一次産業と共に北海道を支えているのが観光産業だ。毎年5,000万人前後の観光客が美しい雪景色や豊かな食文化を求め、北の大地に足を運んでいる。今シーズンは新型コロナウイルス感染症の影響により観光客数は激減してしまったが、今後の気候変動はさらに追い討ちを駆けるような影響を与えかねない。雪解けが早くなり冬が短くなることで、ウィンタースポーツを楽しめる期間が限られてしまう可能性が高い。

 

シーズンインが遅くなることに加えて、2月下旬以降からもう春雪を滑る状況になりつつあります。また、従来なら4月以降の春スキーシーズンも冬の積雪による貯蓄が少ないので、短くなっています。

 

気候変動の影響は、冬だけでなく夏の観光産業にも現れている。夏の名物アクティビティも、十分楽しめる環境ではなくなってきてしまっている。

 

僕は、夏はラフティングのガイドもしています。ゴールディンウィークからからラフティング始まるのですが、雨が降らない時は降らないので、渇水が続いてボートが川底をつくためツアー実施が困難で、ラフティングボートに乗る人数を制限したり、ルートを変更したりすることが出ています。渇水になる頻度は増えてる感じはしますね。

取材協力

福田博之 / ゆきのこ

1972年東京生まれ。1995年ソロで3ヶ月間ユーコン川(カナダ、アラスカ)を下る。スキーだけの生活を3年間( 北海道1年間 、カナダ2年間)過ごした後、北海道アドベンチャーツアーズでバックカントリーツアー部門を立ち上げ7シーズンガイドとして活動。2008年冬に北海道の南富良野にてバックカントリーガイド「ゆきのこ」を、2011年「かわのこラフティング」を設立し、夏の川の冬の山の両方で活動する。