闇夜に光るライトにロボット、新感覚祭!
2023.08.07
——— ここは、大陸のはるか東方に位置する島国。異国からはるばるこの地を訪れ旅する、一人の女の子の物語。悠久の歴史と四季折々の豊かな自然、世界最先端のクールな文化あふれる国…と聞いていたのですが、赴く先々には赤い雲が広がり、なんだか様子が少し違うようです…。
次に少女がやってきたのは、海に浮かぶ南方の地で行われている灶佐のよるさこい祭り。この祭りはかつて、太陽の下、街の人たちが華やかな踊りを舞い、それをたくさんの観光客が見物に来る、この町きっての一大イベントでした。しかしいまでは、夜に光をまとい踊る一風変わった祭りとなり、これまた観光客も様々な方法で祭りを楽しむようになったようです。さて、旅先でしたためた少女の日記をのぞいてみましょう。
お祭りの会場はすごい熱気! たくさんの人が掛け声をかけながら踊ってて、見ているこっちまでワクワクする。中でも暗闇に光るにペンライト!踊りに合わせて動く光はとっても綺麗で、見ている人たちも大盛り上がり!
あたりは、踊り手さんに観光客。夜とは思えない熱気……!手で仰いでいると祭りの案内係の人がうちわをくれた。
「お嬢さん、夜とはいえ、熱中症には気をつけてね[30]。 これでも昼間の日差しを避けて[01]、 夜にお祭りをやるようになったんだ。それで祭りの名前も早く涼しい “夜さ来い”ってことで自然と“よるさこい祭り”になったのさ。昼間なんてとてもじゃないけどできないよ!それに、今日は晴れてよかったよ〜。近頃どういうわけか雨がめっきり降らない[06]と思ったら急に台風や豪雨[03]で祭りが延期になったりしてたんだ。」
そうだったんだ。ちょうど祭りが見られるなんて私ってツイてる!ご機嫌で歩いていると、所々にロボットがいるのが目に入った。他のお客さんと同じように、歓声を上げてお祭りを楽しんでるみたい。不思議に思って隣にいた人に話しかけてみた。
「このロボットは何かって?これは、地方や海外から参加する人のアバターロボットだよ。感染症を気にせずに[29]、 よるさこい祭りを楽しめるんだ。ほら、数年前に感染症が流行しただろ?その時は、この祭りも中止、中止、中止…。今では、マスクをする人、しない人、やっぱり感染が怖いっていうんで、防護服やこういうロボットでのバーチャル参加もできるようにしてるんだ。」
なるほど。確かに、ロボットの他に、ちらほら防護服を着ている人もいる。たくさん人が来るから、色々気をつかってるみたい。
夢中になって見ていたら、なんだかお腹が減ってきちゃった。露店で何か買ってみようかな。覗いてみると、栗ご飯に焼き芋、カツオのたたき、松茸のお吸い物まである!どれもおいしそう。
「よるさこい祭りの新名物、栗ご飯はいかが? この時期ならではの旬の味だよ!」
元気な声に惹かれて、栗ご飯を売っているおばさんのもとへ。目の前にはホカホカしていて、栗のいい匂い〜!
「毎度あり!よるさこい祭りをこの時期に開催するようになってから、栗ご飯を露店で出すようになったの。」
確かに、露店に並んでいるのは、どれもこの季節のものばかり。新しい名物が楽しめるのはお得だな。ちょっと遅い時期のお祭りも楽しいかも。私がそう思ったところで、おばさんはため息をついた。
「まあ、祭りと一緒に栗ごはんを楽しめるのはいいんだけど、最近じゃ、暑い日ばかりで[02]一年通してみても、桜は咲かずに葉桜になっちゃうし、秋をすっ飛ばして急に寒くなるもんだから紅葉する前に葉っぱも落ちちゃうし…[09]。 お花見も紅葉狩りもできないのはちょっぴり悲しいわね。もう夏夏夏冬の二季しかない感じなのよ」
四季があって当たり前って思っていたけど、もう桜も紅葉も見れないんだ……。ただ暑いだけじゃなくて、そんなことまで起きているなんて、ちょっとショック。でも、栗ご飯はホクホクしていてすごくおいしかった。
栗ご飯でお腹がいっぱいになったところで、お土産も買っていこうと思ったけれど…。道には、シャッターの閉まったお店ばかり。ずいぶん古びていて、看板の文字もとれている。もうお店はやってないのかな?お土産屋さんの前でうろうろしていると、近くにいたおじいさんが声をかけてくれた。
「ここの店は、かなり前にやめちまったよ。昔はきれいなサンゴの土産を売っていたんだけど、祭りが中止になったりして観光のお客さんが減ってしまってね[38]。
ここらへんは、この店と同じようにやめてしまった店や工場ばかりだよ。このお祭りで使う鳴子も、作れる職人はもう少ししかいないんだ[34]。」
おじいさんは少し悲しそうな顔でそう話してくれた。それじゃあ、お土産はあきらめるしかないかな……。
「よるさこい祭りはなんとか形を変えて頑張っているけど、お祭りを辞めてしまった他の町は、地元の結束力も低くなってしまったらしい[37]。どんどん町の外に人が出ていってるみたいで、寂しいもんだね[39]。このよるさこい祭りは、踊る人にとっても見る人にとっても、心のよりどころ。続けられるうちは続けていかなくちゃね。」
よるさこい祭りはとっても楽しくて、夜に光るペンライトやロボットでの参加も新鮮だった。でも、この島の伝統的な祭りが形を変えてしまったことや暑い日が続きすぎて四季が無くなったことはちょっぴりショックだった。この国の文化に憧れていたけど、当たり前のものじゃないんだ。この新しいよるさこい祭りは、ずっと先まで続くといいな。
お祭りがこれだけ変化しているってことは、人々の生活もこれほどまでに大きく変化したホトもいるんだろう。次は、この暑さや文化、社会の変化で生活様式を変えた人が集まっているって噂の地域に行ってみよう。
【 このエピソードに出てくる未来事象 】
[01]気温上昇
[02]猛暑日の増加
[03]豪雨の増加
[06]降雪量の減少
[09]四季の変化・消滅
[29]感染症の増加・流行
[30]熱中症の増加
[34]地場産業の衰退
[37]祭り・伝統芸能の衰退・消滅
[38]地域財政の悪化
[39]地域外への人口流出
全国の日最高気温が35℃以上(猛暑日)の日数が増加しています。特に、最近30年間(1992~2021年)の平均年間日数(約2.5日)は、統計期間の最初の30年間(1910~1939年)の平均年間日数(約0.8日)と比べて約3.3倍に増加。猛暑日が増加することによって、夏の期間が長く春と秋は短くなり、日本の四季が消滅の危機にあります。
猛暑や感染症により、地元の祭りや伝統芸能の中止・延期が余儀なくされる状況が増える見込みです。新型コロナウイルス感染症により、京都祇園祭(京都)、天神祭(大阪)、仙台七夕まつり(仙台市)などの日本を代表するお祭りが中止・規模縮小に追い込まれてしまいました。京都の祇園祭は、2018年にも開催を中止しており、それは感染症ではなくでした。熱中症患者や感染者の増加による医療崩壊にもつながりかねないため、同じような事例は今後も日本全国で見受けられるでしょう。
感染症や気候変動などで最も大きな影響を受けるのは、地域資源を活用した観光業や小売業などの地場産業です。新型コロナウイルス感染症の拡大により、不要不急の外出が制限され、旅行などの機会も激減したことにより、数百件以上の旅行業者が倒産・休廃業・解散に追い込まれました。とあるスキー施設では、気温上昇に伴う積雪量の減少により、造雪機を稼働させながら営業を続けたが、電気代が数百万かかり過去にない赤字を出してしまい最終的に廃業に追い込まれたという例もあるほどです。
本エピソードで描かれている気候変動に伴う未来の出来事の因果関係は次のマップの通りです。
気温上昇とその影響は、私たちの生活と文化に深刻な変化をもたらしています。特に、日本の四季折々の文化や行事は、気候の変動に大きく影響を受けています。夏祭りや花火大会など、多くの地域で受け継がれてきた季節の行事が、猛暑日の増加とともに実施が困難になり、次第にその姿を消していっています。これらの行事は、コミュニティを結びつけ、地域のアイデンティティを形作る重要な要素であり、その喪失は計り知れないものとなります。
また、冬のレジャー活動も同様に衰退の危機に直面しています。スキーやスノーボードなど、冬のスポーツが楽しめる期間が短くなり、それに依存した地域の経済も揺らぎ始めています。観光地としての魅力が減少することで、地域に訪れる人々が減り、多くの産業が打撃を受ける可能性があります。
これらの変化は、日本が世界に誇る四季の美しさと、それに基づいた多くの文化や行事を脅かしています。桜の花見、紅葉狩り、雪まつりなど、季節ごとの風物詩が失われることは、私たちの生活に大きな虚しさをもたらし、国としてのアイデンティティも希薄になってしまうかもしれません。
参考リンク
猛暑で花傘巡行中止 京都・祇園祭
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33257920R20C18A7AC8Z00/
6-04 日最高気温35℃以上(猛暑日)の年間日数の経年変化(1910~2021年)