害獣の大量発生で町おこし!食糧危機を救った動物とは…?
2023.05.25
——— ここは、大陸のはるか東方に位置する島国。異国からはるばるこの地を訪れ旅する、一人の女の子の物語。悠久の歴史と四季折々の豊かな自然、世界最先端のクールな文化あふれる国…と聞いていたのですが、赴く先々には赤い雲が広がり、なんだか様子が少し違うようです…。
次の目的地は、この島の最北端、広大な大地に恵まれたジビエの里フランノ。ここはかつて、スキー場に人々が集まり賑わった観光地なのですが、今ではめっきり雪が降らなくなりスキーは年に数回のお楽しみとなって、代わりにちょっと変わった屋台料理が注目を集めているようです。さて、旅先でしたためた少女の日記をのぞいてみましょう。
さらに北へと向かい、やってきたのはここ、ジビエの里フランノ。確かにこれまで訪れた地域より気持ち少し涼しいかも・・?いや、勘違いかしら?
気持ちいい空気に、うーんと背伸びして、あたりを見回すと、青々としたたくさんの山が遠くに見えた。よくみると、その中に、大きな滑り台のような斜面が見える。あれは何かしら?近くにいたまちの人に尋ねてみると、
「あれはスキー場だよ。スキーってご存知…?昔、このあたりは、スキーやスノボーを楽しみにやってくる観光客に溢れてたんだけど、今では、雪なんてそうそう降らなくなっちゃって[06]。今では、冬もあったかくなって[04]、年に1、2回降る大雪の時だけ[07]あのリフトが動くのさ[34] 」
そうなんだ。スキーも興味あるけど、たまに降るくらいが冬も過ごしやすくてていいわね!というと、「冗談じゃない!かと思えば、ドカっと降る日もあって参っちゃうよ[07]。その時は、雪崩が起きやすいし、慎重に行動しなくちゃならない。それに、雪が降らないことで、米や野菜を育てるのに使う水が減っちゃって、作物が育ちにくいんだって[34] 」
すると、どこからともなくいい匂いが…。ふわ~っと匂いにつられていると、「あ!さてはお腹すいてるね?すぐそこに、最近流行の食べ物いっぱいの屋台街があるから行ってみるといいよ。」
ちょっと恥ずかしかったけど、美味しいものには目が無い私。その屋台街の方へ向かってみることにした。
屋台街は、たくさんの人で溢れかえっていた。そのお店からも美味しそうなお肉の匂いがしてくる。屋台のテントには、“ジビエケバブ”の文字。“ジビエ”って何のことなのかよくわからなかったけど、ここ1番の人だかりだから、美味しいに違いない!と思って、店主に話しかけてみた。
「お嬢ちゃん、いらっしゃい!この町名物のジビエケバブおひとつでいいかな?」とりあえず注文した後に、ジビエって何のこと?って聞いてみた。
「知らずに注文するなんて、なかなか好奇心旺盛だね。ジビエってのは、猪とか鹿、熊とかっていう野生動物のお肉のことを言うんだ。なんでもここ最近、このあたりの山でそういう動物が増えてるんだってよ [17]。」
へ~!そんな美味しくいただける動物たちが増えてるなんて最高ね!というと、店主は続けた
「いや~。山里なんかは、農作物被害もあって大変みたいだよ[25] 。今日みたいに冬もあったかい日が増えて、近頃の熊なんて冬眠しないらしいよ。それでだ!増えてる野生動物を美味しくいただけて、さらに観光客もそれ目当てでたくさんきてくれるようにこう言う店を始めたんだ!な!なかなかいいアイデアだろ?はい、お待たせ~!」
話を聞いている間に、ほかほかのジビエケバブが完成!とってもいい匂い。噛みごたえがあるお肉で、とってもジューシー!美味しかった!食べながらガイドブックを眺めてたらジビエの五つ星レストランがあるって書いてある。
ちょっと行ってみようと思い、屋台街を先に進んだ。屋台街を歩いていると、さっきのお店以外にも、鹿串焼き、コオロギラーメン、ベアードッグ、いろんな食べ物が並んでいる。どれも美味しそう!
屋台街を抜けるとすぐに、レストランが見えてきた見えてきた。入れるかちょっと緊張したけど、快く迎えてくれた。
席に着きメニューをみると、そこには、ジビエのフルコース、コウロギスープ、鹿のパテ、熊肉ステーキなどが並んでいてどれも意外とお手頃な値段。メニューの下までみていくとやっと、馴染みのある、チキンソテー、ポークカツレツ、ビーブステーキ。…あれ?値段が一桁も違う…!?お店の人にちょっと聞いてみた。
「牛や豚、鶏肉は、飼育制限がかかっているので、いまでは高級品なんです [35] 。」え!飼育できないの・・?あまりの驚きにもう少し尋ねてみた。
「どうにも、この暑さによって牛や豚がストレスを抱えているらしいんです。すると牛や豚のゲップが増えて、温室効果ガスになるとまた気温が上がる、という悪循環があるとか。代わりに、こちらの大豆ミートがありますよ。とても豚肉に似ていて美味しいって評判なんです!」
牛や豚も私たちと同じで、暑いのが嫌いなのね!そんなことがあるなんてとっても驚いた。ここでは、お勧めされた、大豆ミートとコウロギスープを頼んでみたのだけれど、大豆ミートは見た目も味も豚肉そっくり・・!コウロギスープはかなりのチャレンジだったけど、ほのかに魚介のスープみたいで、じんわり染みる濃厚なスープだった。これで、五つ星なら納得だわ!
このジビエの里フランノでは、ジビエや昆虫食が当たり前。新しい食材も美味しかったけど、今食べている食材って無限にあるわけじゃないんだなと感じた。
今度は、どこかのんびりできるところに行きたいな。そういえば、この島の真ん中あたりに湖底遺跡が見える湖があるってガイドブックで見たな。行ってみよう!遺跡ってわくわくする〜!.
【 このエピソードに出てくる未来事象 】
[04]冬日の減少・暖冬の増加
[06]降雪量の減少
[07]ドカ雪の増加
[17]一部野生鳥獣・昆虫の増加
[33]農作物収穫量・漁獲量の減
[34]地場産業の衰退
日本全国で、冬日と呼ばれる日最低気温が0℃未満の日数は年々減少しています。1910年から1939年までのの30年間の平均年間日数は約67日ですが、1992年から2021年までの最近30年間で約52日と約0.8倍に減少しています。今後、気温がさらに上昇した際には、日本から冬日が消滅する可能性も十分ありうるでしょう。
冬日の減少に伴い、日本国内の降雪量・積雪量も減少傾向にあります。1960年だから2020年にかけて、北日本、東日本、西日本の全てのエリアで、年最深積雪が年々減少しています。たとえ雪が降ったとして降り積もる量が少なくなってしまい、レジャーや農業にも深刻な影響を与えています。特に雪国のレジャー施設などは、積雪量の減少と暖冬により大きなダメージを受け、閉業するケースももはや珍しく無くなってきました。
積雪量が減少している一方で、局地的に100cm以上の雪が降るドカ雪と呼ばれる現象には警戒をしなくてはいけません。空模様が急激に変化し短期間で激しい降雪により、公共交通機関の停止、大規模渋滞の発生、交通事故の増加など日常生活への影響も非常に大きくなるでしょう。北陸地方では自衛隊が出動し交通整備を行うほどのドカ雪もここ数年起きており、山間部や沿岸部の暮らしから切り離せない問題の一つでしょう。
シカやイノシシなどの野生鳥獣は基本的には冬眠をせずに降雪量の少ない地域に生息をしています。気温上昇による積雪量の減少、暖冬の増加に伴い、この25年間で、ニホンジカで約1.7倍、イノシシで約1.3倍ほど分布域は拡大しています。今後はさらに越冬な可能地域が拡大することにより、これまで獣害がなかった地域でも被害が生まれることが予測されています。また害虫と呼ばれる一部のカメムシやダニは温暖化により分布が北上するだけではなく冬季死亡率が低下しており、温暖化が害虫生物の増加・分布拡大・活性化に大きく貢献することが予測されています。
本エピソードで描かれている気候変動に伴う未来の出来事の因果関係は次のマップの通りです。
気温上昇に伴う一つの大きな変化が、冬日の減少・暖冬の増加です。平均気温が上昇し冬季でも暖かい日々が続き、降雪量が減少することで、イノシシやシカなどの野生鳥獣やバッタなどの昆虫も生息域を広げ越冬をしやすくなっていきます。その結果、作物収穫量は減少し地域の大切な一次産業が失われていくことが予測されています。
雪や雪山が一つの大切な地域資源として活用されている地域では、不安定な降雪から冬季レジャーの提供が難しくなっていくことで、地域の観光産業が消失してしまうこともありえます。人工雪を活用しなければオープンできないスキー場が出始めているなど、地場産業は衰退の一途を辿っています。
降雪量は減少傾向にありますが、一方でドカ雪と呼ばれる局所的な大雪のリスクは高まりつつあります。気温上昇に伴な愛、空気中の水蒸気量が増加し日本海の海水温が上昇することで、大雪と雪不足が同時に起こることも十分予測の範囲内です。交通渋滞や社会的混乱を巻き起こすだけでなく、私たちの命さえも奪いかねない未曾有の被害になりうるでしょう。
参考リンク
6-07 日最低気温0℃未満(冬日)の年間日数の経年変化(1910~2021年)